「英語を学ぶすべての人へ」 > 日本人の英語の発音を良くするには? |
4. 結論 日本人の発音をよくするには―以上R大学で教授経験のある講師、助教授らに日本人の英語の発音についてインタビューを行ってきたが、感想としては「日本人の英語の発音をよくすることは可能である」との結論が導き出せそうだ。単語レベルでは、スコットの指摘するように日本語にはない英語の音素を中心に英語の音素を一つ一つ正確に発音することができるようにトレーニングを行うことが効果的であろう。また、文レベルではリズム、強調、イントネーション、リンキング、ピッチ・レンジ、ウィークニングなどを中心にトレーニングすることが必要だと思われる。興味深いのは、著者が、「日本人の英語の発音をよくするにはどうしたらいいと思うか?。」と尋ねたときには単語レベルの発音に関する答えが多かったのに対し、実際に作者がダイアログの朗読を行うと、逆に文レベルの指摘が多かった、ということである。また、単語レベルの発音をよくする具体的なトレーニング方法はスコットが教えてくれたが、文レベルの発音をよくするにはどうしたらいいのか、具体的な方法は見つからなかった。たとえば、強調やイントネーションなどには正解がなく、文脈によって最適なものが変わるため、「これだけおさえておけば大丈夫」という風にまとめることは非常に難しいのではないか、という気がした。文レベルでの発音をよくするには、とにかくたくさんの英語の音声を聞き自然な英語のリズムなどを少しずつつかんで体に染み込ませていくしかないのであろう。 発音以外のところにも問題がある―また、今回は日本人の発音をよくするにはどうしたらいいのか、という趣旨でこのインタビューを行ったのであるが、特にトッドが指摘してくれた"willingness to speak up"、つまり積極性の問題や、スコットの指摘してくれた「自分がネイティブであると思い込みなさい」という自信に関する問題は予想外で大変興味深かった。両者とも日本人の話す英語をより理解しやすいものにするためには、英語の発音以外のところに問題がある、という指摘であった。よくよく考えてみれば、日本人同士が日本語で話すときでも、小さな声でぼそぼそしゃべったり、口数が少なくて説明不足なのでは、自分の真意を相手に伝えることは難しい。そのようなことは考えれば当たり前なのだが、とかく外国語となると発音を気にするあまり積極性や自信に関すると二の次になってしまう、という傾向がある。発音をよくするにはどうしたらいいのか、というインタビューで発音をいくら良くしても問題は解決されない、という指摘を受けたことは発音にとらわれすぎた私に重要な盲点を気づかせてくれ、新たな課題を与えてくれた。 Native-likeな発音が果たして望ましいのか―もうひとつ指摘しておきたいのは、ノン・ネイティブである我々は、必ずしもnative-likeな発音を習得する必要はない、という最近の傾向のことである。英語はもはや英米語ではなく、国際標準語としての地位をある程度確立しつつある(竹林・斎藤、3)。そのような国際語として英語を考えるのであれば、すべての人が必ずしもnative-likeな発音をしなくてはいけない、ということにはならないであろう。フランス語圏の人はフランス語訛りで、中国語圏の人は中国語訛りで、そして日本人は日本語訛りで英語をしゃべることがむしろ正当化されてしかるべきなのである。そうすることでそれぞれの国籍の人々が、国際化の時代において失われがちな自分たちのアイデンティティを保持できる、という考え方もある(日野、168-171、209-214)。たとえば、国連などの国際的な会議では、英語を母国語としない人々が自分の母国語訛りで堂々と英語で演説している姿を見かける。また、R大学観光学部KT教授は「英語同時通訳法」という授業の中で、アメリカの国務長官であったキッセンジャーはドイツからの移民であるため英語からドイツ訛りがぬけなかったが、それがある種のチャームともなっていた、とおっしゃっていた。そのような傾向を考えに入れると、native-likeな発音という幻想にとらわれて、日本人訛りの英語を「日本語英語」と一蹴してしまうのは一種の英米偏重主義にすぎないのではないか、とさえ思ってしまう。 ただし、今回のインタビューで明らかになったように、その「日本語英語」が障害となって円滑なコミュニケーションを防ぐ場面が想定される、ということも事実なのである。そして、何も英語のネイティブ・スピーカーに媚をうるためではなく、誤解を最小限にして円滑なコミュニケーションを実現するために発音を学ぶ、という積極的な姿勢は評価されるべきであろう。少なくとも、日本語にないが英語にある音素を学ぼうというくらいの努力はすべきではないのであろうか。 日本人の英語の発音を「よくする」には―「日本人の英語の発音をよくするにはどうしたらいいか」ということを発見するためにはじめた今回の調査であったが、インフォーマントの話を聞くうちにそもそも「いい発音」とは何なのか、そしてその「いい発音」が本当に必要なのか、というようなことまで考える機会さえも私に与えてくれた。私の英語の発音について直接ネイティブ・スピーカーにアドヴァイスをいただくのもめったにない経験であったし、非常に充実したプロジェクトであったと感じている。 (参考文献) 島岡丘、「現代英語の音声 リスニングと発音」、研究社出版、東京、1978年 島岡丘、「教室の音声学」、研究社出版、東京、1986年 杉田敏、「NHKラジオ やさしいビジネス英語 1998年4月号」、NHK出版、東京、1998年 竹林滋・斎藤弘子、「英語音声学入門」、大修館書店、東京、1998年 日野信行、「トーフルで650点―私の英語修業」、南雲堂、東京、昭和62年 Crystal, David, "English as a Global Language”, Cambridge University Press, 1997" (参考Web site) 文部省、「文部省ニュース 学習指導要領」、http://www.monbu.go.jp/news/00000317/
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